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名古屋地方裁判所 昭和52年(ワ)1490号 判決 1978年9月29日

原告

藤戸兼政

ほか一名

被告

森秋男

ほか三名

主文

一  被告森秋男、同森新一は連帯して、原告藤戸兼政に対し、金二三〇万二六六〇円及び内金二一三万二六六〇円に対する昭和四九年七月一日から、原告藤戸米子に対し、金一九三万二六六〇円及び内金一七八万二六六〇円に対する右同日から右各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告両名の被告森秋男、同森新一に対するその余の請求及び被告田内義明、同田内益雄に対する請求はいずれもこれを棄却する。

三  訴訟費用は、原告両名と被告森秋男、同森新一との間においては、原告両名に生じた費用の二分の一を同被告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告両名と被告田内義明、同田内益雄との間においては、全部原告両名の負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して原告藤戸兼政に対し、金八六八万円及び内金八〇〇万円に対する昭和四九年七月一日から、原告藤戸米子に対し、金八一八万円及び内金七七九万円に対する右同日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告森秋男、同森新一(以下被告森らという)の答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

三  請求の趣旨に対する被告田内義明、同田内益雄(以下被告田内らという)の答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和四九年六月三〇日午後零時三〇分頃

(二) 場所 福井県三方郡美浜竹波一二号先道路

(三) 加害車両 被告森新一運転の普通乗用自動車(以下森車という)

(四) 事故の態様

被告森新一は森車の助手席に訴外藤戸義夫を同乗させて前記道路を南進し、先行の普通乗用自動車を追越すべく、時速約五〇キロメートルにて道路センターラインの右側に進出したため、対向車線を北進してきた被告田内益雄の運転する普通乗用自動車(以下田内車という)を自己の前方約一四・八五メートルの地点において始めて発見したが、被告森新一はもはや急制動の処置をとる余裕もなく、森車の前部を田内車右前部に激突させたため、森車は大破し、助手席に同乗していた訴外藤戸義夫に脳底骨折の傷害を負わせ、同訴外人を昭和四九年七月一日午前二時頃敦賀市所在の敦賀病院において死亡させるに至つた。

(五) 被告森新一の過失

被告森新一はセンターラインの右側に進出するにあたつては、対向車線上を十分注視し、対向車の有無を確認して進行する注意義務があるのに、これを怠つたため。

(六) 被告田内益雄の過失

被告田内益雄は被告森新一が先行車を追越すべくセンターラインを越そうとして、右にカーブした道路の内側を小廻りし、対向車線を森車が南進してくるのを二〇メートル以上前方より認めていたのであるから、センターラインを越え自己の走行車線に森車が進出するおそれがあることをおもんばかり、予め道路左側一ぱいに避譲して進行し、あるいは速度をおとし、安全にすれ違いできるように措置を講ずべき注意義務があるのにこれを怠り漫然センターライン近くを時速五〇ないし六〇キロメートルにて進出したため。

2  責任原因

本件死亡事故は被告森新一と被告田内益雄の共同不法行為により発生したものであり、また被告森秋男は森車を、被告田内義明は田内車をそれぞれ自己のため運行の用に供していたものである。

3  損害

(一) 亡藤戸義夫の逸失利益

亡藤戸義夫は死亡当時一八歳の男子であるから、余命年数は七二歳であり就労可能年数は四九年であつて、一八歳の男子の平均月収は九万一〇〇〇円であるところ、生活費として三〇パーセントを控除した四九年間の同訴外人の逸失利益の現在価額をホフマン方式により年五分の中間利息を控除して算定すると、その額は一八六六万三五九〇円となる。

原告藤戸兼政は訴外藤戸義夫の養父であり、原告藤戸米子は同訴外人の実母であり、他に相続人は在存しないので、原告両名は同訴外人の死亡により相続人として同訴外人の地位を承継した。

したがつて、原告両名は各金九三三万一七九五円の損害賠償請求権を有する。

(二) 葬儀費用

原告藤戸兼政は敦賀病院に亡義夫の遺体を引き取りに赴き、自宅において葬儀を行つた右費用五〇万円

(三) 慰藉料

原告両名は訴外藤戸義夫が成人となるのを期待していたのに、突如として一人息子を失つたもので、原告両名の精神的苦痛に対する慰藉料としては各五〇〇万円が相当である。

(四) 弁護士費用

原告両名の弁護士費用は各三八万九一〇〇円(着手金各金八万円、成功報酬各金三〇万九一〇〇円)

4  損益相殺

原告両名は自動車損害賠償保険金として金一二九六万三六四〇円の支払いを受けたので、原告両名につき各金六四八万一八二〇円を前記損害に充当する。

5  よつて、本件交通事故による損害賠償として、原告藤戸兼政は前記3の(一)ないし(四)の損害額から4の金員を差引いた残額八七三万九〇七五円の内金八六八万円と右(四)を除くその余の内金八〇〇万円に対する昭和四九年七月一日から、原告藤戸米子は前記3の(一)(三)(四)の損害額から4の金員を差引いた八二三万九〇七五円の内金八一八万円と右(四)を除くその余の内金七七九万円に対する右同日から各支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告田内らの認否

1  請求原因1の事実中、(一)ないし(三)は認め、(四)の内被告森新一が対向車線上の車両の有無を確認することなく同車線上に進出し、折から同車線を北進中の田内車に衝突したことは認めるが、その余は不知、同(五)の事実は認め、(六)の被告田内益雄に過失があつたとの点は否認する。

2  同2の事実中、被告田内義明が田内車の保有者であることは認めるが、その余は争う。

3  同3の事実は争う。

三  被告田内義明の抗弁

本件事故現場は幅員六・五メートルあり、センターラインによつて対向車線が区分されており、附近は森車の進行方向からみて右カーブの個所であり、被告森新一は追い越しに際し、方向指示器も出さず、対向車線上の車両の有無を確認することなく時速五〇キロメートルでセンターライン右側に飛び出して本件事故を発生せしめたものである。一方、被告田内益雄は制限速度を遵守し、正常に左側車線内を北進していたのであるから、被告田内益雄において前方に森車を発見したとしても、森車が交通法規を守り、田内車との衝突その他の事故を起さないよう適切な行動に出ることを信頼して運行するのは当然であり、被告田内益雄には森車が至近距離から突如無理な追い越しをはかり、センターラインを突破して進行することまでも予想して予め減速徐行したり、道路左側を進行する等接触衝突による危害の発生を未然に防止するに足る特別の措置を講ずべき注意義務はない。

したがつて、被告田内益雄に過失がなく、被告森新一に過失があつたものであり、かつ、田内車には構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたから、被告田内義明には責任がない。

四  請求原因に対する被告森らの認否及び主張

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の(一)の事実中、亡藤戸義夫が死亡当時一八歳の男子であつたこと及び同訴外人と原告らの身分関係は認めるが、その余の事実及び(二)ないし(四)は不知。

3  同4の事実は認める。

4  亡藤戸義夫は森車の好意同乗者であつたから、その損害額については相当の減額がなされるべきである。

五  抗弁に対する認否

原告田内義明の抗弁は争う。

第三証拠〔略〕

理由

(被告田内らに対する請求について)

一  原告ら主張の日時及び場所において、被告森新一が対向車線上の車両の有無を確認することなく同車線上に進出し、折から同車線を北進中の田内車と衝突したこと、被告田内義明が田内車を自己のために運行の用に供していたことについては当事者間に争いがない。

二  そこで被告田内益雄の過失の有無及び被告田内義明の抗弁につき検討する。

成立に争いのない甲第三号証、丙第一ないし第六号証(丙第四号証は乙第一号証に、丙第五号証は乙第二号証に同じ)、公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第三、第四号証、第五号証の一、二、第六号証を総合すると、次の事実が認められる。

本件事故現場は、北から南に向つて右に緩くカーブし、かつ同方向に下り勾配となつた片側一車線の歩車道の区別のない幅員六・五メートル(センターラインの東側三・一メートル、西側三・四メートル)と右車道の東端にある〇・八メートル幅の路肩からなるアスフアルト舗装のされた道路であり、本件事故現場付近はカーブのため見とおし距離は約七〇メートルであり、かつ、本件事故当時は雨のため路面はぬれていた。

本件事故が発生したのは、被告森新一が訴外藤戸義夫ら七名の同僚とともに四台の自動車に分乗して海水浴に出かけたその帰途であるが、被告森新一は自車の助手席に右訴外人を同乗させ、右同僚の車の先頭から三台目のところを連らなつて走行中、右先行車二台が次々とさらにその前方を走行していた他の自動車を追い越して行つたので、被告森も右他車を追い越そうとその機会をねらいながら本件事故現場付近に差しかかつた頃、右他車が左の方向指示灯をつけ、若干スピードを落したので、右車の追い越しにかかり森車が本件衝突地点より約三〇メートル手前付近で対向車線上をみたところ、自己の視野範囲内には対向車が見えなかつたので、先行の右他車に約五・一メートルまで接近し、これを追越そうとして、方向指示灯もつけないままセンターラインの右側に進出したところ、対向車線上を自己の方向に向つて進行してくる田内車を一四・八五メートルの地点に初めて発見した。しかるに、その時はすでに被告森新一にとつては急制動の措置をとる余裕もなく、自車右前部を田内車右前部に激突せしめた。

一方、被告田内益雄は本件道路中自己の走行車線を南から北に向つて時速約四〇キロメートルで走行して本件事故現場付近に差しかかり、自己の前方約二七メートル先の対向車線から森車が同車の先行車を追い越そうとしてセンターラインを越えようとしているのを認めた。被告田内益雄は森車が右カーブの道路を内小廻りに走行するものと思つたが、さらに同車がセンターラインを越えて田内車の走行車線上に進入してきたため、これを回避する間もなく森車と衝突するに至つた。

以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によれば、本件現場道路は片側一車線で道路幅も狭いところであり、しかも右道路が森車の進行方向から見て右にカーブしていて対向車線上の見とおしも十分ではない地点であるから、先行車を追い越すにあたつては、対向車線上の車両の有無に十分注意し、これとの接触事故を起すことのないよう安全を確認して運転する義務があるのに、被告森新一はこれを怠つたのであるから、同被告に過失があつたことは明らかであるが、被告田内益雄としては、右のような道路において対向車線上の車両が交通法規を守り適切な行動のもとに走行するものと信頼して運行するのは当然であつて、同被告には対向車が反対車線から突如無理な追い越しをはかり、センターラインを突破して進行することまでも予想して運転すべき注意義務はもとよりのこと、前記のような道路において、被告田内益雄が予め右の如き危険を予想して道路左側一ぱいに避譲して進行する義務はないものというべきである。また、被告田内益雄が自己の走行線上に森車が進出してきた際、同被告においてこれを回避して適切な処置を措るだけの余裕があつたことを確認するに足る証拠はない。

したがつて、被告田内益雄は田内車を運転するにつき注意を怠つた事実はなく、過失はなかつたものと認めるのが相当であり、また田内車に自動車の構造上の欠陥または機能の障害があつたことは認められない。本件においては、かかる欠陥または障害はなかつたものと認むべきであつて、被告田内益雄には損害賠償の責任がなく、被告田内義明は自賠法三条但書の規定により運行供用者としての責任を負わないものと解するのが相当である。

三  以上説示のとおりであつて、原告らの被告田内らに対する本訴請求はさらにその余の点につき判断するまでもなく理由がないものといわなければならない。

(被告森らに対する請求について)

一  請求原因1及び2の事実については当事者間に争いがなく、右事実によると、本件交通事故につき被告森新一には過失があつたものというべきであるから、同被告は民法七〇九条によりまた被告森秋男は森車の運行供用者として訴外亡藤戸義夫及び原告らの被つた損害を賠償する義務があるものといわなければならない。

二  そこで、右被害者の被つた損害につき検討する。

1  訴外亡藤戸義夫の逸失利益について

訴外亡藤戸義夫が本件事故による死亡当時一八歳の男子であつたことは当事者間に争いがなく、昭和四九年厚生省発表の簡易生命表によれば、一八歳の男子の平均余命は五四年であることが認められ、他に特段の事情の認められない本件においては、同訴外人は六七歳までは就労可能と考えられるから、同訴外人の就労可能年数は四九年ということができ、賃金センサス昭和四九年度産業計男子労働者の一八歳から一九歳までの月間給与額は七万五四〇〇円、年間賞与その他の給与額は一〇万五一〇〇円であり、年間収入は一〇〇万九九〇〇円であることが認められるから、同訴外人は右四九年間、少なくとも右年間収入を得ることができたであろうと推認でき、その内生活費として二分の一を要するとするのが相当であるからこれを控除し、その総額の現在価額を年毎ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、その額は次の算式どおり一二三二万八九六〇円となる。

1,009,900×0.5×24.4162=12,328,960円

ところで、原告藤戸兼政は訴外藤戸義夫の養父であり、原告藤戸米子は同訴外人の実母であることは当事者間に争いがなく、原告藤戸兼政本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告両名は訴外亡藤戸義夫の相続人であり、他に相続人はなく、原告両名は相続人として二分の一の法定相続分に従い同訴外人の地位を承継したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

したがつて、原告らの右損害額は各六一六万四四八〇円となる。

2  葬儀費について

原告藤戸兼政本人尋問の結果によると、原告藤戸兼政は、亡藤戸義夫の遺体の引取り及び葬儀を執行したことが認められ、右事実に照らして同原告の葬儀費用については三五万円と認めるのが相当である。右原告本人尋問の結果によれば、葬儀等の費用として右金額以上の支出を要したことが認められるけれども、これを超える分については本件事故と相当因果関係はないものと認める。

3  慰藉料について

原告両名が訴外亡藤戸義夫の両親であることは前記のとおりであり、原告藤戸兼政本人尋問の結果によると、原告両名は訴外亡藤戸義夫の両親として同訴外人が成人となるのを期待していたのに、本件交通事故により一人息子の同訴外人を失つたことにより精神的苦痛を受けたものであることが推認せられ、右事実に徴し、原告両名に対する慰藉料は各三〇〇万円と認めるのが相当である。

4  訴外亡藤戸義夫が森車の好意同乗者であつたとの点について

成立に争いのない乙第六号証、真正に成立したものと認める丙第二、第三号証、第六号証、原告藤戸兼政本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、森車は被告森新一の兄である被告森秋男の所有名義となつてはいるが、被告森新一は右車両を自己の所有に属するものとしてこれを運行してその利益を得ていたものであること、同被告は本件事故当日同僚の訴外亡藤戸義夫ら七名とともに四台の自動車に分乗して本件事故現場近くの海水浴にきていたものであり、その帰途、被告森新一は森車の助手席に右訴外人を同乗せしめて運転中、本件事故に遭遇したものであることが認められる。

右認定の事実によれば、同訴外人は被告森新一の車両に同被告の好意で無償同乗させてもらつていたものというべきであり、右同乗の目的、態様に照らして、同訴外人もまた森車の当該運行による利益を得ていたもので、被告森新一の右運行利益は割合的に減じているものと認むべきであるから、公平の理念に照らして、前記認定の原告らの損害の内慰藉料につき三割を減ずるのが相当である。

三  以上の事実によれば、相続による分をも含めて原告藤戸兼政の損害額は合計金八六一万四四八〇円、原告藤戸米子の損害額は合計金八二六万四四八〇円となるところ、原告ら両名が自賠責保険金として各金六四八万一八二〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがないのでこれを控除すると、原告藤戸兼政の損害額は金二一三万二六六〇円、原告藤戸米子のそれは金一七八万二六六〇円となる。

四  弁護士費用について

原告両名が弁護士である原告ら訴訟代理人に本件損害金の取立を委任したことは記録上明らかであり、本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと原告らが被告森らに対し本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は原告藤戸兼政につき一七万円、原告藤戸米子につき一五万円と認めるのが相当である。

五  以上のとおりであつて、被告森らに対する原告らの本訴請求は、原告藤戸兼政については連帯して金二三〇万二六六〇円及び内金二一三万二六六〇円に対する本件不法行為の日の翌日である昭和四九年七月一日から、原告藤戸米子については連帯して金一九三万二六六〇円及び内金一七八万二六六〇円に対する右同日から各支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があり、その余は理由がないものといわなければならない。

(むすび)

よつて、原告らの被告森らに対する本訴請求は右認定の限度において認容し、その余は失当としてこれを棄却し、被告田内らに対する本訴請求はすべて失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 白川芳澄)

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